スピッツ『8823』の歌詞を読み解く –君を幸せにはしない男−
現在、スピッツの『8823』をギターで練習しています。
8823で「ハヤブサ」と読みます。
このライブ動画が好きなので勝手に貼らせていただきます。。。
8823は私がスピッツの中で一番好きな曲です。
気持ち良い疾走感と、その高揚する気分にピタッとはまってドキッとさせられる歌詞が好き。
さよならできるか 隣近所の心
とか
あの塀の向こう側何もないと聞かされ
それでも感じる赤い炎の誘惑
など、「抑圧された日常」や「不自由な現在」を想起させ、そういったものから抜け出そうと画策し、具体的な根拠はないけれど好転するであろう希望に燃えている様子を思い起こさせます。
そこからサビへの盛り上がりは、走り出した(ハヤブサだから飛び立った?)イメージができ、逸る気持ちや勢いを表していると思います。
この歌で最も印象的なフレーズはこの二つかと思います。
君を自由にできるのは宇宙でただ一人だけ
君を不幸にできるのは宇宙でただ一人だけ
「自由」と言ってる時点では、まあよくあるフレーズで「自由にできるって言葉のチョイス、ロマンチックだな〜」などと何の疑問もなく受け入れられるけど、2番のサビで「不幸」と軽快に歌われ、「えぇっ?今なんつった?」と反応し、二度見ならぬ二度聴きしてしまうほどの衝撃がある。
歌全体のストーリーから推測すると、この「ただ一人」というのは、抑圧された世界から抜け出すパートナーってことだと思うんです。一人称が登場しないところが、この「ただ一人」が誰なのかを惑わす要因だと思うのですが、素直に考えれば「君=彼女」で、その対になる「僕=彼氏」ってことかな〜と思うのです。
この歌を初めて聴いた時は大学生の頃だったのですが、社会のしがらみから抜け出すカップルみたいなイメージで捉えていました。センチメンタルでモラトリアムな心にドンピシャでハマり、自由を求めて一時的にワッとはしゃいでみたものの、結局は社会の一部にならざるを得ないよねという悲哀も秘めた「8823」という感想でした。
「LOVEと絶望の果て」とか、まさにそれを表していて、「やっぱり解放されて自由を得ても、おいそれと生きてはいけないよね〜」なんて思っておりました。
時は流れて2020年。
折に触れ結構聴いた曲ではあるものの、ギターを持ち、自ら発声して歌ってみると、なんだかまた違う意味に思えてきたのです。この8823の歌詞が。
君を自由にして、不幸にもするこの男。
君を幸せにすることはない……
という解釈に、大人になって変わってしまったのです。
自由にはする、不幸にもする。でも、幸せにはしない。
それって、不倫…? そんな気持ちで歌詞を読んでいくと、
さよならできるか隣近所の心 思い出ひとかけ内ポケットに入れて
(すっかり日常になってしまった家族の存在。別に嫌いではないんだけどさ)
荒れ狂う波に揺られて 二人トロピコの街を目指せ
(世間的には日陰者でも、理想的な自由な世界で理想の関係でいたい
そんな街、実在するかはわかんないけど)
ガンダーラじゃなくてもいいよ
(まあ、完全な理想郷じゃなくていいです。ぶっちゃけ現実問題として)
愚かなことだって風が言うけど
(ええ、わかっちゃいるのよ、愚かだってことは)
クズと呼ばれても笑う
(ええ、クズですとも)
という具合に、妙にしっくりきてしまう。
実際不倫なのかはわからないけど、この二人は何らかの後ろめたさのある関係性なんだろうな、多分。彼女がいるのに違う女の子とか、友達の彼女とかさ。知らんけど。
そうなると、「ハヤブサ」とか「隼」ではなく『8823』という表記も暗号みたいで、「秘密の関係」の風情を醸してくる。
そして、ラストの一言がね、しみじみと悲哀に満ちているのです。
今は振り向かず君と・・・
そう、わかってるんです。この人は。
この関係が世間に受け入れられるものではないこと、隣近所の心のようなありふれた幸せではないということを。
振り向いてしまったら、抑圧されつつもなんだかんだ安全で心地良いしがらみに舞い戻ってしまいそうな危うさがあることを。
この先どうなるかはわからない。でも今は君と二人、越えてはならない塀を乗り越えて、トロピコの街を目指したいのです。そのくらい勢いよく恋に落ちてるんです。
スピッツって、草野正宗さんの歌詞って、手に入れることのできないもの、消えていくはかないものが崩れ落ちていく瞬間をものすごく的確に切り取っていると思います。
私はスピッツの歌、歌詞が鋭く胸に突き刺さってしまって、その昔あんまり好きではなかったのです。もうなんか、痛すぎて。(カッコ悪いという意味のイタいではなくて)
でも、歌詞が本当に素晴らしいと思うので、スピッツについてはまた書きたいです。
あ、ギターの話をしていなかったけど、Aメロとサビの差をアコギでどう出すか研究中です。